のべかん第7回 〜人機魂沌〜
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さて、今回は海猫沢めろん氏の「零式」でお送りします。ハヤカワ文庫JAから刊行中の本作は青春小説です。といっても、青春小説鉄板のボーイ・ミーツ・ガールではないんですが。
ちなみに「零式」でGoogle先生に聞いてみても上の方には「零式艦上戦闘機」しか出てきません。なんてこった。
さて、本作、歴史改変SF青春小説です。
大戦末期、神國は帝国本土への長駆2万キロの特攻作戦≪神武作戦≫を立案、実行する。報復として原爆を投下されたあげく無条件降伏した神國、その55年後が本作の舞台。
大戦から半世紀を経て、帝国統治下で鎖国状態の神國では多数の無者(兵士)を要するカルト右翼『大零翼賛会』の國粋主義者が連日のように無差別テロを起こす。
そんな國粋主義を「安易すぎてノれない流行」と評し、時代遅れの原始駆動機(ちなみにレシプロマシンとルビが振られます)を駆る主人公の少女・朔夜。もう一人の主人公は翼に憧れる囚われの天子・夏月。
鎖国状態の殺伐とした国での二人の出会いから始まる物語と、朔夜のスピードへの憧れがとにかく魅力的。
さて、『鋼舞』という名前の朔夜の原始駆動機ですが、要するに普通のバイクです。作中では主力はリニアマシンと呼ばれるリニアモーター式になっており、レシプロエンジンを使うタイプは時代遅れのものとして描かれています。しかし朔夜は内燃機関にこだわり『鋼舞』に乗り続ける。
この辺は「ハイブリッドカーなんて車じゃねえ!」と考える走り屋の人を想像していただければ大変分かりやすい構図。エンジンがついてないなんて車じゃねえ。車はやっぱり内燃機関ですねわかります。
というように、朔夜は基本的に賊(思春期の懐疑主義者・朔夜談)として描かれているんですが、盗んだバイクで走り出すような、目的もなく衝動のままに走っている序盤から、夏月と出会った後の『壁』を超えるために走るまでの成長っぷりが本作の青春小説たる所以。たぶん。
この朔夜の成長とスピードへの憧れ、夏月の翼への憧れが話の軸になります。この辺は青春物語。
しかし、本作で最も濃く、ひたすら印象に残りまくるキャラは間違いなく「狂い猿」猿宮忌三。大戦中は戦闘機乗りとして500出撃で撃墜300という軍神。≪神武作戦≫を生き抜き、戦後は愛國心という妄執を抱いて生きる老人ですが、150キロの装備を着込んで5m跳んじゃう。かなりヤバい爺さんです。
この忌三爺さん、どうみても虎眼先生です。今回これ書くにあたって改めて読み直したんですが、ますます虎眼先生にしか見えません。
キレちゃってます。
後半に忌三が大零翼賛会の無者達と死合うシーンがありますが、思わず笑っちゃうくらいのキレっぷり。
一騎当千の無者 - 5000
迎え撃つは満身創痍の老兵 - ただひとり
最初の交錯で20名以上を屠り、
「残り4978命に候…」
この爺さん、ノリノリである。
何よりも、時速600キロを叩き出すためだけに、特別仕様の空冷星形変則12気筒ターボエンジン(出力は実に7000馬力!)を単車に持ってくるという荒技。
改造前の『鋼舞』も十文字16気筒(1200馬力)という変態仕様でしたが。どうみても作者の趣味にしか見えないんですがコレ。
だがそんなことは関係ないぜ!というアツさ。このアツさが『零式』。
本筋の構成はシンプル、要するにガール・ミーツ・ガールなのになぜここまでアツくなるのか…。
最初から最後までハイスピードで展開する『零式』。オススメです。God speed you!